以前、まだ大学生でまだ周りの人間がテレビをそれなりに見ていた頃、たまに挙がった話題が、「最近、誰々(基本的には女優もしくはアイドルの名前)ってすごくかわいくない?」というものだった。おそらく日本中、というより世界中どこの社会と文化を探しても見つけられる話題だ。基本的なやりとりは
A:最近、◯◯って女優がすごく綺麗でさ
B:へぇ、確かに最近名前はよく聞くわ。そんなになんだ?
A:そうそう。初めて見たときはまだ出始めでそうでもなかったんだけど、最近なんかCMとかドラマとかでみるようになってから、すごく綺麗になってるんだよね。
B:まじか!ちょっと検索してみよう…。
A:うん、見てみて…ほら、やっぱりかわいい!
といったものだ。あまりにもありきたりすぎて書いてて逆に違和感を覚える会話だが、誰もが一度は繰り広げた経験があると思う。さて、この文章を読んでいる読者はこの手のやりとりを聞くと「はいはい、あるある」と思うかもしれないが、コミンズはこれを聞くと「またブラウン管シンドロームを患ったやつが現れたか…実に残念」と思う。
ブラウン管シンドローム(略して「ブラシン」)とは、ある人間をテレビで見続けたら(今の時代はYouTubeやインスタなどのSNSも含まれる)、見かける頻度によって外見がちょっとずつ「増し」て見えてくる現象のことを、勝手にコミンズが名付けたものだ。基本的には上記のケースのように、まだ無名の女優やアイドルがテレビに登場し、その後露出が増えることにより全国各地で一斉に見られ始める。また、ブラウン管シンドロームを患ったものを「ブラシンの患者」とも読んでいる。
ブラシンの患者の特徴は、みな「最近の◯◯は可愛くなった、綺麗になった」と言い張るところにある。また、万が一にでもその◯◯本人にブラウン管の外の現実世界で遭遇した場合は、「やべえ、本物の◯◯、テレビより全然かわえええ!!!」と狂喜乱舞するのも特徴である。さらに、ブラシンの恐ろしいところは、多くの場合ブラシンの患者は自分がブラシンを患っているという自覚がないところにある
テレビや雑誌、広告というメディアを通してマーケタイズされた芸能人を頻繁にみることにより、ブラウン管シンドロームの餌食となる一般人が多いことにはなんの不思議はなかったが、テレビ局に入り日々働いているうちに、業界人の多くもブラシンの患者だと気づいたこと時はかなり驚いた。むしろ業界人のほうが重症だった。先輩や同期の多くの人間も、例えば同期の女子アナがテレビに出るようになった瞬間、「最近、(女子アナの名前)綺麗になったよね」といった発言をよく言ってきた。また、そういった内容を女子アナ本人に言う人もいた。おそらくブラシン患者の業界人の常套句なのだろう。業界人としてはまだぺーぺーの同期の男共が、ちょっと悦に入ってこのような発言を言っているぐらいなのだから、プロデューサーなどといったベテラン業界人は新人のグラビアアイドルなどを捕まえて、日々軽々しく言っているはずである:「◯◯、最近綺麗になったよねぇ〜」と。
さて、Keep it Real精神と本質を問い、貫き続ける*1ことがライフモットーである、私コミンズ・リオ。大学生から疑問に感じていることが、
「そもそも『最近綺麗になった』って、どゆこと??」
である。ブラシン患者がまるで呪文のように唱える、「最近綺麗になった」というフレーズが全く理解できないのだ。
まず、根本的に「綺麗になった」という意味がわからない。テレビに出て、最終的に売れっ子になるレベルの女優やアイドル、そしてそれこそ同期の女子アナだって、もともとすごく綺麗でかわいい。それが、「綺麗になった」とはどういうこと?
業界人はこの問いに「テレビに出ることに慣れてきた」とか「自信がついてきた」という極めて曖昧な答えを出してくるが、本当にそんなもので「綺麗になった」と言えるほど変化が見られるのだろうか?もともと女性というのは、第一に化粧、第二に体調、そこから「ホルモンバランス」とか「その時の気持ち」とか「最近いいことあった」とか「昨日久しぶりに彼氏に会えた」とかそういった様々な詳細なファクターで大きく綺麗度が変わるというのに、漠然と「綺麗になった」なんて言えるのだろうか*2。「綺麗になった」というのは、根本的にワンランク上がった、給料でいうとベースアップみたいなものではないのか?時給1080円が、時給1250円になるように、定量的にアップグレードが見られるものではないのか?すでに大人になり、顔の成長も形成も止まった時点で、自然な形で根本的な変化が見られるほど「綺麗になる」方法はない。そんなのがあったとしたら、整形業界なんて存在しない*3。
さらに、ブラシン患者はこの「綺麗になった」という罵詈雑言に、「最近」という言葉を加える。「最近」だと?そんな短期間で人の顔が根本的に、そして安定して変わるか!
ここで答えが出る。対象の女性芸能人が「最近綺麗になった」のではない。「最近その当事者の、『◯◯を見る目』が変わった」だけの話である。女優もアイドルも女子アナも、ずっと同じ顔で同じぐらい綺麗だった。テレビや雑誌や広告にたくさん出ることによって、お前の意識が変わっただけだ。
週刊少年ジャンプを代表する歴代ラブコメ漫画の一つ、桂正和の「I”s」の中に象徴的なシーンがある。メインヒロインの一人の伊織ちゃんが飲料水のテレビCMに出演することになり、それが放送された途端、友達グループのモブキャラ一人が急に友達からファンに変わった。今までは普通に接していた男子学生が、同級生の女の子一人が一般人から芸能人の卵になった瞬間、まるでそれまでの関係性が存在しなかったのごとく、オタク的なファンに変貌する*4。伊織ちゃん自身は何一つ変わっていないのに。極端な例だが、結局ブラウン管シンドロームとはこのモブ友達の症状を軽くしたものである。
人間というものは自分が主体であるため、周りの環境で何か変化を感じると、真っ先にその「周りが変わった」と考える。「自分が変わった」と考える人は極めて少ない。そしてもちろん、周りが変わるケースもないわけではない。この手のテーマで言えば、「最近見ないな」と思った芸能人がすごく「綺麗になって」(コホンッ。整形して)帰ってくるケースもある。そしてもちろん、10代半ばでデビューした女優やアイドルが、10年の時を経て大人の女性になることで「綺麗になる」ことは当然ある。なので、大事なのは、自分に変化があったのか、周りに変化があったのかを客観的に問い直し、本質を見抜く力である*5。
あ、そういえば一つだけ、安定的に、本当に「綺麗になる」事例があった。それは、その演者の美しさを最大限に引き出す力を持ったメークさんが専属でついた時である。しかしそれを見極められる人間なら、もはやファンを通り越して専門家。ブラウン管エフェクトの心配はありません!(笑)
*1:Keep it Real 精神、そして本質を問い・貫き続けることに関しては、コミンズの卒論を読んでください。連絡待ってます!(笑)
*2:逆に、だからこそ「今日は綺麗だね」という言葉を男性はよく女性に対して使うのだが(デイリーな変化の方が本質的であり、見抜きやすいから)、この言葉を発すると女性は「今日は…?え、じゃあいつもは綺麗じゃないの?」と逆手に捉える傾向があるので、これも注意しなくてはならない。あー、女ってめんどくさい!(笑)
*3:ブラウン管シンドロームによりマスが「最近思ったんだけど、◯◯って本当に綺麗だよね〜」と心底信じ、それにより最も得をする芸能界こそが、最も整形業界の力を必要としているこの皮肉。本当我々が生きているこの浮世、事実は小説よりも奇なり…。
*4:完全なる余談だが、ファンに変貌した青年は、ファンに変貌して異様にキモくなったせいで、伊織ちゃんを含めた主人公グループの卒業旅行に呼ばれなかった。I”s…なかなかリアルです!
*5:本文に書こうか迷ったが、「最近綺麗になったね」と本人に言うのは、半分口説き文句であるということも頭に入れなくてはならない。いくら本質を見抜いたからとはいえ、「君が綺麗になったのではない。君がテレビに出ることにより、僕の君を見る目が変わったんだ」とか本人に言ったら、もはや変質者である。コミンズがモテない理由が明確だ。