【妄想〜ザ・アイツの心境〜シリーズ】とは?
幼い頃から日常的に、小一時間ほど窓の外を眺めぼーっと妄想を繰り広げ、両親に「この子…大丈夫かしら?」と心配をかけてきた私コミンズ・リオ。この【妄想〜ザ・アイツの心境〜シリーズ】では、体ばかり大人になったそのリオが、(おそらく)いつの日にもならないであろう「アイツら」の日々の心境に関して全力で妄想してみる、という、前置きの説明書きがついても全く解りやすくならない文章です。とりあえず読んでみ。
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読者のみなさまがどれだけ少年漫画に精通しているかはわからないが、あまり嗜みを持っていないと仮定して説明すると、少年漫画が「この作品、人気出てきたのかな?」とバロメータで測れる中期判断基準の一つとして「キャラクター人気投票」がある。この「キャラクター人気投票」、初期段階の判断基準「アンケート獲得率」と「単行本の販売部数」から最終段階の判断基準「アニメ化」「ドラマ・映画実写化」までの間を担う、重要なイベントなのだ*1。実際何が行われるかというと、読者がある投票方法を用いて、該当作品の中のキャラクターに投票する、という、名前そのままの活動。また、なぜ「ある投票方法」というかと、例えば「ハガキ一枚=一票」にした場合、歴代週刊少年ジャンプラブコメなどでは、一定の気持ち悪い…失礼、熱心な読者が、推しのキャラクターのためにダンボール一箱分のハガキに記入して送ってくるなどの珍事が相次ぎ、TPOによってこのような現象を抑える方法が適応されている*2。なお、様々な投票メソッドの違いにより、最近では作品同士の単純な横比較はしにくくなったが、基本的には送られてくる総票数でその漫画の世間での人気がなんとなくわかる。
このキャラクター人気投票に置いて、私コミンズ・リオ、子供の頃から不満を覚えていたのが、投票を集める上位を飾るキャラクター連中に対してである。少年漫画のメインテーマを担う、王道冒険ものやスポーツものだと、トップに入るキャラは作品の主人公やライバル、主人公の師匠や仲間である。簡単に言うと、「かっこいい」や「イケメン」系のキャラがほとんどだ*3。この理由としては週刊少年ジャンプのアンケートシステム*4とそもそも論理の抜け穴は同じなのだが、わざわざ好きなキャラクターをハガキに書いて切手を貼って郵便ポストまで持っていくという、普通に考えたら相当「めんどくさい」作業をやるのは主に女性の読者で(少年週刊誌・月刊誌の名目上のターゲットである「少年」たちの行動を想像して見よう…①「ヤベー、今週のワンピースおもしれー!」→②雑誌を放り投げ遊びに出かける、で終了だ*5)、少年漫画に入れ込んでさらにハガキまで出す女性読者の多くはイケメンキャラにゾッコンなのである。生まれた瞬間からの中二病で、オルタナ精神とリベラリズムの拠点の一つであるオレゴン州ポートランドで生まれ育ったコミンズ・リオからしてみれば、どの漫画に置いても毎回結果は面白くなかった。地味な脇役たちこそが面白いんだろう、と。
中学一年生の頃に出会った名作バスケ漫画「スラムダンク」一つを例にとってみても、世間が流川や三井にキャーキャー言ってるなか、「沢北がいなければあいつが山王のエースだった」と言われた山王工業・影の職人「松本」や、主人公・桜木から、キャプテン赤木とルックスが似ていると言う理由だけで試合終盤のパスミスを受け取り、それが漫画内での最大のハイライトとなった海南大付属「高砂」などに憧れていたコミンズ少年からしてみれば、世の中のマジョリティやマスの応援の仕方は実につまらなく感じた。物語の端に追いやられた彼ら彼女らに光が当てられることはまずない…だとすると、自分の得意技、「妄想」で光を補うしかない。照らせよ、神聖なる光…そこから始まったのが「じゃないやつら」の妄想だ。主人公「じゃないやつら」やイケメン「じゃないやつら」。バラエティ番組「アメトーーク」の回の一つに、お笑いコンビの中で「目立ってないほう」、いわゆる最初に想像するほうじゃない「じゃない方芸人」の回があったり、「夏目と右腕」と言う、あらゆる分野で活躍するスターたちの右腕となる人物をフィーチャーする番組があったりと(気づいたらどっちもテレ朝だ…万年四位から抜け出しても滲み出る地味性w)、多少なりとも世間で「じゃないやつら」を取り上げるコンテンツはありつつも、そこは私コミンズ・リオ、妄想はそんなところでは止まらない。検証してみよう。
アメリカのポップやヒップホップ音楽のミュージックビデオでよく見られるパーティシーンを想像してみて欲しい。豪邸かクラブか大自然の中で、何十人もの美男美女が、酒やドラッグにまみれ、ちょっと「えっちぃ」行動に勤しんでいたり、大抵水着姿とか半裸に近い状態(その内の一人が、毎回ちょうど良いところに配置されたプールにちょうどいいタイミングで落ちたりする率も高い)…そこは文字通り酒池肉林。この場合、このミュージックビデオの曲のアーティストは当然だがメイン人物なので、真ん中で歌ってたり、楽しく過ごしていたりで、その周りには、アーティストの友達なのか他にフィーチャリングされたアーティストなのか、またはミュージックビデオのためにキャスティングさせたモデルなのかがいる。妄想の対象はこいつらじゃない。妄想するのは、3分半の動画の中で、何回かちょろっと映った、文字通り場違いな、あんまりイケてなさそうなあいつ。あいつだ。てか、あいつ、そもそもなんでここにいるんだ?メタ的に考えると、ミュージックビデオ製作陣の、偉いプロデューサーの甥っ子とかなのだろうか?「おじさん、〇〇のPV、今度やるんでしょ!エキストラでいいから出させてよ!」みたいなことを言われて、プロデューサーも可愛い甥っ子のお願いだから断れなかったのか。作品内だと、どうだろうか。たまたま幼馴染がメイン人物の周りにいるイケてるグループに所属していて、「おいダニエル、お前もたまにだからパーティこいよ!」って誘われて、普段だったら敬遠しているこういうパーティに参加してみたものの、場慣れしてなさすぎてて、隅っこで誰とも話さずチビチビ酒でも飲んでるのだろうか?で、家に帰ったら緊張ですごく疲れてるものの、「イケてる奴らのパーティ、行ってきたぜ。正直大したことなかった」と地味友グループに見栄を張ったメッセージでも送るのだろうか?そして、寝る前に、イケてるグループ所属でパーティにきていた、同じ学校のマドンナ(配役:上記でキャスティングされたモデル)と一回だけ目があったことを思い出し、何十回も脳内で反芻しながら眠りにつくのだろうか?…やばい、妄想、楽しすぎる!!
ファンタジー色が強くでる作品になってくると、どうしても主人公や悪役たちと、一般人との恒常的な差が出てくる。例えば漫画「ドラゴンボール」でいうと、初めて地球にやってきたナメック星人のラディッツがそこらへんにいる農家のおじさんの「戦闘力」をスカウターで計測し、「戦闘力…たったの5か…ゴミめ…」と発言する。そしてそのラディッツが所属する組織の親玉、最終的に主人公・悟空がスーパーサイヤ人になって倒す宇宙一強いフリーザ様は、戦闘力53万である。農家のおじさんのざっと10万倍だ。もはや桁が違いすぎてよくわからない。
なので、当然かもしれないが、ドラボンボールに限らず、こういった超人たちの戦いに巻き込まれる一般人たち、要するに主人公たち「じゃないやつら」の作品内の現状は悲惨で、だからこそ妄想が捗る。特に市内で暴れられたりとかすると、もはや人ごとじゃない。うわぁ、またあいつら暴れてるせいで街が破壊され地下鉄のダイヤ狂ったよ…取引先絶対に間に合わないじゃん…とか。怪獣映画を見るたびにも思う。まだゴジラに潰される家はいい。あれは比喩表現含めて、「災害」だ。撃退しようとしている自衛隊…これに破壊されたものはどうする?汗水働いて、35年ローン組んで建てた家が、ゴジラには傷一つつけないくせに、民家だけは木っ端微塵にする75式130mm自走多連装ロケット弾発射機などに爆破されたら、自分だったら立ち直れない。主人公たちからしてみれば、決死の覚悟で守るor信じるor貫いている大切な何かのための戦いかもしれないが、それに巻き込まれた無力の一般人たちにも生活、家族、人生があると考えると、なんか全て違う見え方がしてきて、うん、やばい、妄想、楽しすぎる!!
子供のころ、映画「タイタニック」を初めてみたときに、一番感じたのが、「うわぁ、本当にこの船沈むんだ…」だった。子供だから、正直ジャックやローズに対して興味はない。一番心の琴線に触れたのは、沈んでいく船と、それに含まれた、数々のモノだった。イギリスからアメリカに向かって、たくさんの人の想いが詰まったモノたち。リバプールに住んでいるグランマ…愛する孫の新しい生活のために、なけなしの貯金を渡し、その表象として渡した大きなテディベア…時は1912年、歳をとっている彼女は現実的に今後アメリカなどに行く可能性はないから、孫にはもう二度と会えないだろう…テディベアを見るとき、たまにでいいからイングランドに残っているグランマのことを思い出しておくれ…しかしそのテディベアも、その他多くの、一つ一つストーリーと想いのこもったモノたち同様、タイタニックと共に海の底…*6。やばい、泣けてきた…。人間よりもモノに対して感情移入し悲しんだり喜んだりするタイプ…それは人間としてどうなんだろうかとも思うが(自分の性格と、人生に置ける現状が色々説明がつく)、実際にこうやって勝手にモノの妄想をして人生に色を与えているので、やはり、妄想、楽しすぎる!
…以上、三つほど「じゃないやつら」の妄想となったが、いかがでしたでしょうか?まだまだ「じゃないやつら」はたくさんいるので(むしろ世の中のマジョリティが「じゃないやつら」である)、読者のあなたも、一度、少し時間をかけて妄想してみてはどうだろうか。きっとそこからは違う世界が見えてくるはず。
*1: なぜ「中期」かと言うと、ある程度漫画自体が続かないと登場しているキャラクターの数が少なすぎて、人気投票がそもそもできないから。一般的な期間のイメージとしては、週刊連載で1年ほど経ってから。ちなみにギャグ漫画などでは、この時間軸を逆手に取るものもあり、2000年代前半の週刊少年ジャンプを代表したギャグ漫画「ボボボーボ・ボーボボ」では連載第三回で偽のキャラクター投票が行われた(そして1位から10位を主人公のボーボボが独占した笑)。
*2: 「ある投票」の例をいくつか挙げると、IPを特定することによって複数投票を防ぐ「ネット投票」や、単行本を購入したもののみが手に入れられる「投票権制度」など。それでもあの手この手を使って大量投票を試みるので、少し気持ち悪い…失礼、熱心なファンの行動力は本当にすごい。むしろ出版業界を支えてくれてありがとう。
*3: 上記*1の「ボボボーボ・ボーボボ」 の例でもそうだが、ギャグ漫画だと逆に投票システムにギャグ漫画の要素が加わり、一概には言えなくなる。例えば、週刊少年ジャンプで連載していた「太臓もて王サーガ」では、人気投票に完全別の漫画である「ジョジョ」のキャラクターたちが登場した。これをきっかけに、人気投票であえて脇役や他の漫画のキャラクターに投票する、と言う伝統も生まれた。
*4: ジャンプのアンケートシステムについて:Wikipedia 引用
週刊少年ジャンプは他誌と比較しても、読者アンケートを参考にして編集の方針を定める傾向が強い。アンケートによる評価は作家の実績・経歴に関係なく平等に適用され、「アンケート至上主義」と呼ばれる。このため、一世を風靡した作品・作家でもアンケートが悪いと連載が打ち切られることがある。ただし連載一周年を超えた作品などは、本誌連載が打ち切られても他誌に完結編を掲載する場合がある[注 7]。
掲載順も基本的にアンケート上位の作品であるほど前になるが、アンケート結果が厳格に運用されて全誌面の構成が決定するわけではなく、編集部の販売戦略やデータマイニング、メディアミックスのタイミングなども加味して誌面・作品の構成が左右されることがある[注 8][注 9]
*5: てか、ワンピース自体、最近の少年からしたら大人が読む漫画らしいが。最近は「僕のヒーローアカデミア」か、「鬼滅の刃」か…。時が経つのは恐ろしい。
*6: タイタニックが印象深いのは、父方のおじいちゃん「グランパ」が昔からよくタイタニックの民謡…?だろうか?を歌っていたからもあるとは思う。その曲の歌詞、かなり詳細にまで人間からモノまで色々と沈みまくったことを入念に歌詞にしてたので…。