LEO KOMINZ
モテないメンズ・ラプソディー(後編)
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そもそも、なぜ「モテる」ことがここまで重要になったのか。単純なる「個体の生存」という意味では、人間社会においては弱肉強食はほぼなくなりかけている。病弱で生まれた人間も現代医療のおかげで長生きできるし、社会的ヒエラルキーが低くても、基本的な社会福祉と市場の原理で、飢え死になどはせずに生き延びることができる。自然界だったら淘汰されているであろう個体も、人間社会に置いては単純に「生きること」だけを考えたら心配をする必要はなく、それどころか、基本的には子孫を残すこともできる。なんなら、一般的に「モテ」を求める理由となっている、「容姿や金銭的な優位性が人生に置ける幸福度に連動している」と言う一般的に蔓延している潜在的な考えも、証拠となるはっきりとしたデータは出ていない。互いにモテる力を駆使し、美女を手に入れた男性や玉の輿に乗っかれた女性が、外見的にも収入的にも「普通」の夫婦が送っているいわゆる「普通に幸せな人生」よりも常に幸福かと言えば、必ずしもそう言う訳ではない。

しかし、「モテ」への渇望はとどまる事を知らない。例えば、金銭的に裕福であったり、権力を手に入れている人間の多くは、わかりやすく「女」に走るケースが目立つ。結局お金や権力だけではそこへの欲求は埋まらないのだ*1。雑誌やインターネットメディアが特集する、「モテる」ためのファッションや行動、秘訣などは、売り上げやビュー数獲得の要となっている。モテないメンズ・ラプソディー(前編) でも書いたが、上記の雑誌やメディアに加え、恋愛マニュアルやナンパ本など、それ専門の書籍も数多く出版されている。さらに、P.T.アンダーソン監督の映画「マグノリア」に出てくるような、「どんな女でも落とせる男にお前もなれる!」と大言壮語を掲げ、数多くのモテない男性を集めるセミナーを開催するカリスマモテ野郎(自称)などもそこら中に溢れている。ここまでくると、やはりどこか根源的な部分で我々人間は「モテること=ハピネス」と因果関係が存在する思っているのだろう。

そこで、ではなぜそもそも「モテるメンズ」と「モテないメンズ」がいるのかについて考えたい。自分はモテ講座のセミナーを開けるようなカリスマモテ野郎ではないので(むしろその対極に佇んでいると思っている)、ここから繰り広げられる考察は「モテること」に対しては何一つ実践に活かせるものはないと思うが、他のテーマ同様、読者自身の考えるきっかけになればと思っている。

簡単にまとめると、二つ理由があると思っている。一つは「女性の一部隠しの矛盾による一極集中」であり、もう一つは「淘汰されなかった男性たちの非現実思考」だ。タイトルだけだと意味不明だと思う。説明しよう。

★「女性の一部隠しの矛盾による一極集中」

男性のうち「誰がモテるか」は、結局のところ女性が「誰がいいと思っているか」と直接連動している。そして、ここから複雑になってくるのだが、一番の問題は女性は「誰がいいか」を直接的にも全体的にも露わにしないところにある。

男性は基本的にアホなので、「どんな女性がいいか」は大変わかりやすい。可愛い子がモテる。美人がモテる。スタイルがいい人がモテる。愛嬌がある女性がモテる。一定レベルの外見に、そこから性格が多少プラスアルファされ、モテガールが形成される*2。女性はもっと複雑だ。必ずしも外見だけではない、様々なファクターが重なってくる。高身長でイケメンでお金持ちで優しくて面白くて…などの一見パーフェクト野郎が仮にいたとしても、その人が万人にモテるとは限らない。かなり前の「笑っていいとも!」(R.I.P.)のお客さん100人が質問に回答するコーナーで(正確にはお客さん100人中1人しか「はい」と答えない質問をゲストが考えるコーナーだっけ?)、追加の検証質問として「福山雅治に告白されたら付き合う」に「YES」と答えた女性が7割ほどだった。この結果に対して番組レギュラーだった中居正広は「そんなの嘘だ!本当はみんな付き合うでしょ!」と大声で腕を振りまきながら過大リアクションをしていたのを思い出すが、これは中居が間違っている。女性の中には「明確な理由はないけど別に福山雅治はタイプじゃないから」と思っている人は一定数いるのだ。これが男性100人に対して「長澤まさみと付き合うなら〜」*3だったら、おそらく100%近くが「YES」と答えるだろう。そして数人の「NO」は、「ぽっちゃりしか愛せない。まさみは細すぎる」などの一部の変わった性癖を持っている外れ値しかいないはずだ。

ただ、なぜ問題は複雑かと言うと、上記の通り女性のタイプは散漫しており、男性に比べて「有名人だしルックスもいいしとりあえず付き合ってみるか」といった考えに移らないのだが、それが表面的じゃないがゆえもっと根源的な部分での共通性が隠れており、これこそが大変ややこしい。例えば、わかりやすいのが「ちょっと悪そうなやつ」だ。この「ちょっと悪そうなやつ」は、我々モテないメンズからしてみればその実態は謎に包まれながらも、悔しすぎるほど一定レベルでモテるのだ。中高生の時も、大学生の時も、社会人になっても関係ない。業界も関係ない。以前、名前は伏せておくが、ある国民的有名女優と仲が良い友達が、「〇〇(女優の名前)、久しぶりに誰か好きになったんだけど、その相手があんまり評判がよくなくてさ…。あの子、本当に純粋でいい子なのにね…」と話しており、不覚にも「ブルータスよ、お前もか!」と叫びそうになってしまった。モテ女のヒエラルキーの頂点オブ・ザ・頂点に君臨し、少しその気さえ見せれば日本国に在住する男性なら誰でも手に入れられるようなその国民的女優でさえ、ちょっと悪そうなやつに引っかかる。高校ではカースト上位に所属する少し遊んでそうな不良っぽいやつ(少女漫画によく出てくる)であり、芸能界ではいろんな若い女性芸能人と浮名を流してるやつ(週刊文春によく出てくる)というだけで、結局のところ根本は変わらない。

ナチュラルに漲る自信、女性のスマートな扱い、原始時代まで遡る「単純なる物理的な力→ワイルドさ→ちょっと悪そうな感じ」という「力」への憧れや信頼など、そもそもなぜ「ちょっと悪そうなやつ」がモテるかには色々理由はあると思うが、今回はそこは深く掘らない。それより、このモテの対極が出来上がっている理由は、女性たちの「一部隠し」によるものだと言うことが重要だ。簡単に言うと、基本的に女性は、「実は私、ちょっと悪そうで、女性にモテる人がタイプなの」と述べることがないのだ。もしかしたら女子会などでは言ってるかもしれないが、とりあえず男性の前で言うことはまずない。なぜか。それは普段言っていることと相反するからだ。女性がよくあげる付き合いたい男性の例として「優しい人」とか「浮気をしない人」などがあるが、「ちょっと悪そうなやつ」は、優しい時もあればそうじゃない時もあり、浮気も普通にしている可能性が高い。要するに、矛盾がここで生じているのだ。

そしてこの矛盾の被害者がモテないメンズなのだ。モテないメンズの多くが、実は「優しい」人だったり、「浮気しない人」だったりする(てか彼らはそもそも浮気するほど相手を選べる立場にいない)。そして、彼らは、目の前に座っている可愛い女の子が言う「優しい人がいい」の言葉をそのまま鵜呑みにする。そして「それって俺、当てはまるのでは…?」と思い込み、その子を好きなったりする。しかし、上記の通り、この発言には一部隠しが適用されており、本当の発言は「(ちょっとワイルドだけど)優しい人」「(女性の扱いが慣れていて)浮気しない人」で、モテないメンズは全くもって該当しない。彼女が求めてるのは、毒にも薬にもならず、ただ優しいだけのモテないクンではなく、必ずしも毎回優しくはないかもしれないけど、優しい時もたくさんあるし、何より一緒にいてドキドキしたり、自分のことを特別に扱ってくれたりする男性なのだ*4。

そして、これが一極集中に繋がる。なぜなら、モテないメンズは一部隠しに気づかず、どんどんモテガールズを好きになっていく。しかしモテガールズは絶対数の少ない、一部隠しに当てはまるモテるメンズに群がる。一部の男がいい女をみんな手にすると言う、超リバタリアン的恋愛市場が現代の人間社会なのである。

★「淘汰されなかった男性の非現実思考」

しかしそこは人類皆平等の男、コミンズ・リオ。上記のまま行くとモテないメンズだけが一方的な被害者になるが、実はモテないメンズにも非はある。彼らは、本来の自然界の掟であれば自然淘汰される存在にも関わらず、現代社会のシステムと言う恩恵のおかげで生き延びれたことをいいことに、変に期待値がずれていることが多い。よくあげられるケースが、「俺、モテないんですよ」と言い張るモテないメンズに対する、至極まっとうな意見:「理想が高いのでは?」だ。

そう、多くのモテないメンズは理想が高い。恋愛経験があまりないのにも関わらず、どう見ても現在の自分のレベルとあってない女性を対象に常に考えてたり動いてたりする。リリー・フランキーの言葉を借りると「素振りもしてないのに、バッターボックスに立ってホームランを打てると思っている」状態*5。メディアに犯されたのか、フィクションに置ける物語性やサクセスストーリーをリアルに信じきっているのか、単純に謎に自己評価を高く持ってるのか、そもそもプライドが肥大してるのか、正直のところはわからない。part.1でも書いたように、世の中のマジョリティは「普通」なのにも関わらず、モテないメンズの多くはなぜか上位層のモテるメンズと張り合っているのだ。ここまでくると、ある意味モテないメンズも悪い。

結局、救いはどこにあるのか。実は、一つシンプルな答えがある。「歳をとる」ことだ。面白いことに、歳をとると、一部隠しを行なっていた女性も、「ドキドキ」や「ちょっと悪い」に疲弊し、本当の意味で「浮気をしない」だけを求めるようになったりする。そしてモテないメンズも謎のプライドを捨て始め、もっと多くの女性を対象にするようになる。そこで、初めてモテないメンズは「普通」へと昇格する。そしてうまくマッチングが行われ、世の中のほとんどの夫婦となるのだ。改めて周りを見て欲しい。周りで結婚をしていたり、幸せな家庭を築いている知人友人の多くは、そんなバリバリモテるやつらではなかったはずだ。むしろ「普通」だったはず。なのでモテないメンズ諸君、ここで最後のメッセージだ。多少迫力にかけるが、そう「普通」を目指そう!*6。

*注釈*

*1: 一般的に高額と言われる年収1000万円を手に入れながらも、女性に全く縁のない人生と、日本の平均年収である420万円で、いつも可愛くて綺麗な女性に囲まれ関係を持っている人生とでは、どちらを選ぶ人が多いだろうか。ちょっとアンケートを投げてみたいね。

*2: こうは書いてるも、性格がクソでもすごく美人だったら一定レベルでモテるのが女だから、本当に男とは悲しい生き物よ…。

*3: 改めてありがとう、長澤まさみ。この詳細については「【妄想心境】ゴイスー女と付き合ったあと」を読んでいただけましたら。

*4: ガチで悪い人もいや、という、極端性を嫌うのも女…つくづく自分とは価値観が合わないんだよなぁ。まあ自分もガチで悪い人は嫌だけど。

*5: リリー・フランキーはちょっと違う用途で使っていたがw 詳細を知りたい方は「リリー・フランキーの人生相談」を読め!

*6: ここまで書き終え、少し感じているのが、「本当にガチでモテない俺たち」はこの文章を読んで憤りを感じているのか、ということ。外見的要因で第一印象がマイナスから始まる、言葉にすると辛いが世の中のデブ・チビ・ハゲ・体臭くさい・肌荒れ・毛むくじゃらなど彼ら(そしてそれらを何重苦にも重ねてる彼ら)は、「いや、そもそも女友達すらいないよ!」とか「三次元の女性とかほとんど話したことないよ!」のレベルの葛藤を抱いており、今回の「モテないメンズ・ラプソディー」で書いた内容すら非現実…というか超現実という事実。彼らは「同じ『モテない』でも一緒にするな!」と不愉快に思い、なんなら怒っているかもしれない。

しかし、これは何も面白みもない回答になるかもしれないが、その人たちも、「普通」に上がる努力はできる、とは思っている。女性は生理的に受け付けない人はどうしても無理と良く言うが、同時に、ちゃんと風呂に入る・歯を磨く・髪を解く・ヒゲをそるなどの清潔感を保つことや、シンプルな服装でおしゃれにしているだけで大分人間の印象は変わる。そして、前編でも書いたが、女性は男性に比べてそこまで外見を重要視していない。なので、あとはモテないメンズサイドが現実を見るだけ。日本だけで結婚適齢期の女性は数千万人いるのだ。世界にはさらに何十億人もいる。絶対に誰かはいるのだ。

text:
コミンズ リオ
illustration:
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18-04-02