父親の仕事の関係で日本の幼稚園と中学校で一年ずつ、高校では半年間を日本で過ごしたのだが、高校3年の4月から9月を過ごした早稲田大学高等学院での時間は、今振り返ってみても自分の人生に多くの強い影響を与えたものだった。実に様々なエピソードがあるのだが、その中でも限りなく他愛もなく、影響力が低かった思い出の一つが、授業中に行われた「可愛い子を選べ」ゲームである。おそらく名前は違えど、男子校に限らず日本中の学校で行われている遊びであり、ルールは至ってシンプルである。まず5~8人の男で集まり、誰かが調達してきた、1ページに多くの女性が載っている雑誌(我々は無料と言うことも含め毎回Hot Pepper Beautyを使用していたが、おそらくどの女性誌でも基本的には成り立つ)のページをランダムに開き、「いっせーのせ」で各々、誰が一番好みかを指差す、と言うだけの遊びだ。しかし、シンプルがゆえにこのゲームはかなり奥が深く残酷で、参加している人間の隠れた部分が多く露呈される。ほとんどの場合、たとえば1ページに8人ほど女性が載っていたとすると、2〜3人に指は集中する。そして、自分が選ばなかったその他の2~3人の女性に対しても、「あ、そっちの子ね!わかる、その子と悩んだわ〜」といったリアクションが溢れるのだが、男性7,8人集まると、必ず一人ほど、「え、その子…!?う、嘘だろ…??」と周囲がそれぞれ互いを見合わせちゃうようなチョイスをしてくるやつが現れる。そう、「B専」出現の瞬間である。しかもこのB専の彼、マイページマイページ必ずと言っていいほど、周囲のコンセンサスが取れている2~3人に該当しない女性を選ぶのである。こうなってくると一同ソワソワし始め、ゲーム初期では仮説でしかなかった「こいつガチでB専なんじゃねえか?」という説がより現実味を帯びてきて、こと当の本人は、自分の好みがこんなにも周りとずれていることに対してショックを隠しきれなくなってくる。最終的には冒頭の盛り上がりはどこへやら、気まずい沈黙が広がる中、チャイムと共に授業が始まる。いやあ、この「可愛い子を選べ」ゲーム、人間の奥深い部分が露わになる、実に愉快な遊戯である。
Part 1. でも記載したが、私コミンズ・リオ、この「美の基準」を始めとした「性癖」にはずっと悩まされてきた。上記の例だけで言っても、なぜB専の彼は「B専」なのだろうか、とは当時からよく考えた。彼の目には、周りの男性にはあまり魅力的に感じられない女性が美しく写っているのである。なぜなのか。彼と他の男性との違いはどこにあるのか。
まず、「美の基準」を語る上で、しかもそれが人間の外見的美しさを指すことになると、話はとても、とてもややこしくなってくる。なぜなら、Part. 1で取り上げた「味覚」よりもはるかに、ルックスの美しさは主観的だからだ。肉汁溢れるステーキや、砂糖をふんだんに使ったスイーツは、ほぼどの文化圏の人間でも美味しいと感じるように人間は生物としてプログラムされているのだが*1、たとえば「美しい女性」には共通プログラムはない。近代西欧的美しさ(胸や腰が強調されながらもスレンダーさも保つ体型、目鼻立ちがはっきりとした顔、など)がグローバリゼーションにより一定のスタンダードになりつつはあるも、ある文化圏ではふくよかな女性が美しく、ある文化圏ではチリチリとした髪が美しい、などは現在でもいくらでも存在し、「世界三大美女」と聞いてワクワクした中学生男子が歴史の教科書の楊貴妃や小野小町を見てがっかりするように、「美の基準」は時代、場所、文化的背景によって実に様々である。マスコミによって「1000年に一度の美女」という、どう考えても期待に応えられないラベルを貼られたかの橋本環奈女史でさえ、例えばアマゾンの原住民には全く魅力的に感じられない可能性が高い。
研究によると、人間が感じる外見的魅力には一応法則があるらしく、その人が育った環境の平均値なのだそうだ*2。自分が育った環境から、周りにいた女性16人を取り、顔を重ね平均させれば、その人を美しいと感じる、らしい。また、左右対称性など、単純に人間が本能的に美しいと感じる要素もある。これらの研究にはとても納得できる部分があり、それを知るまでに長年感じていた「なんで六本木とかで見かけるかっこいい黒人の男性はみんな、あんな可愛くない日本人女性と手を繋いで意気揚々と闊歩しているんだ?*3」という疑問に対して答えを提供してくれた。そう、おそらくこの黒人男性たちは、アメリカの黒人が多い地域の出身である。当然だが、生まれ育った環境も黒人がほとんどだ。そこで形成された美意識を今度は、なんらかの理由で住むことになった(大抵はアメリカ軍に入隊)、アジア系ばかりがいる日本という国で当てはめるとなると、そりゃ日本で生まれ育った一般日本人男性と女性のタイプが違うのは当然だ。おそらく彼らはなんらか潜在的にある黒人的美女要素を日本人女性たちの中に見つけ、選んでいる。橋本環奈を見ても、「なんだこの子供みたいな女は?」がせいぜいのリアクションであろう*4。
ここで最後に、もっとも人間の根元に当たる、「性癖」について考えてみたい。結論から言うと、性癖も味覚と同様、グラデーションなのではと思っている。ただ、それが「性」、大きく言うと生物が存在する理由と直結しているから面白い。例えば、美の基準も、落とし込むと性癖の一つである。美の基準を「赤色」とすると、すごくルックスにうるさい、一般的に「面食い」と呼ばれる人は単にグラデーションが豊かなのである。美しさの基準の幅が広く、そこに当てはまらないと「美しいと思えない」ーー例えば9段階に分けた美しさの中で、「濃い赤」と「超濃い赤」しか付き合えないと言い張る男は、間違いなく面食いである。逆に、ヤリチンなどの多くは、3色ぐらいで生きている、と感じられる。言うならば、綺麗でやりたい濃い赤、普通にやれる普通の赤、綺麗だとは思えないけど来るもの拒まずの薄い赤、だ。(要するに、とりあえず赤けりゃなんでもいいのである。)そして、この「性」だから面白いと言う部分は、「美しいと思わなくても性的に興奮できる」と言う所にある。不味い食事なら食べなくてもいいや、と多くの人間が思うのに対して、綺麗だと思わなくても抱ける、のが人間なのだ。ある意味、ヤリチンは常に「性的に空腹」の状態なのだ。
「性癖」のグラデーションの面白さはその色の多さにもある*5。例えば、一般的に「性癖」の代表格とされている「SM」をみてみたい。仮に「SM」を「黒色」とする*6。近年、彼氏に行為中に首を絞められたいと言う若い女性が増えている、という話を以前聞いたが(本当かどうかはあまり重要ではない)、これはマゾヒズムの「黒色」スケールでどの辺りなのだろうか?ひと世代前の良妻賢母の淑女の方々からすれば、限りなく黒に近いグレーかもしれないが、職業女王様にとっては、こんなのほぼ真っ白かもしれない。首を絞められることの興奮を知った若い女性自身も、その時はすごくキワドイことをやってるつもりかもしれないが、その後もっとハードなプレイ*7を知って、「あんなの全然大したことなかったのね」となり、そもそもグレースケールが変わるかもしれない。そしてこの事実は、ロリータコンプレックスから制服フェチまで、おねショタからNTRまで、露出狂から熟女好きまで、全てに当てはまる。
ハンバーガーしか食べてこなかったアメリカ人が納豆を美味しいと感じられるようになるように、性癖のグラデーションも成長し、豊かになっていく。そう言う意味では味覚と性癖はとても似ている。東南アジアの諸国に行き、田舎の村で夕食に出された昆虫が入った一皿を、躊躇なく口にし、さらには「あ、これ結構いけるかも?」と思えるグラデーションの豊かさは、あるパーティにて、周りにたくさんの人がいる中、手足をベッドの角に縛られ、ネクタイで目隠しをされ、Tシャツを腹から首までめくられ、主催の女性に乳首を棒でいじられ興奮できるグラデーションの豊かさ*8と連動していると思っている*9。
性癖の色は無限にあり、さらにそのグラデーションの豊かさも限度を知らない。さらに、味覚や嗅覚をはじめとした食、視覚や聴覚に代表されるビジュアルアートや音楽も、美しさのグラデーションが繰り広げられる。未知のものとの出会いを楽しめるか。多種多様なものを面白いと感じられるか。脳と細胞と神経には無数の色が宿ることができる。あとは心のパレットを広げるだけだ。
1: 「人間が何を直感的に美味しいと感じるか」については part.1 の注記で触れたので、ぜひそちらを見ていただきたい。
2: こちらに一応研究データありました。https://www.sciencenewsforstudents.org/article/what-makes-pretty-face
3: しかし例外もいる。父の元生徒、パイロットになった黒人男性のB氏は、シンガポール航空のキャビンアテンダントの日本人と結婚した。その相手のかた、芸能人かと思うほどの日本的な美しさ。B氏、羨ましすぎる。
4: なんか、橋本環奈ごめんw 悪いのはマスコミです!ちなみに、某「やってみなはれ」系飲料メーカーで働く知り合いの黒人男性G氏は「日本の女性は基本的にお尻が小さすぎる!顔も体も子供みたい!」とよく嘆いているので、証拠がないわけではない。
5:「なぜお前が語れるのか」という質問に対しては、「コミンズが読みふけっているエロ同人誌の数をナメるなよ?」と答えたい笑
6: 厳密に言えば黒は「色」ではないのだが、SMと黒の相性がいいと思ったのでこの際それは無視する
7: …詳細を書こうと思ったが、とりあえずやめます。Search at your own risk、ですね。
8: 実はこれは友人に実際にあった話w 彼はこの体験から完全にMに目覚めてしまった…。
9: 何も実証性はないのだが、ちょっと考えてて楽しかったのは、日本人の食嗜好と変態性は連動しているのか?という疑問。世界からは、AV業界の市場の大きさ、エロアニメとCGなどの種類やジャンルから、日本はエロ大国だという認識は強い。美食に関してはpart.1で述べた通り、世界一と言ってもいい。というか、二つの掛け合わせから生まれた、「女体盛り」や「ノーパンしゃぶしゃぶ」など、ある意味究極のコラボレーションにまで持っていってるので、あながち言えなくはないと思っている!笑